2014年11月16日日曜日

長期優良住宅における劣化対策の見直しに係る提言内容【重要】

既報ですが、長期優良住宅への劣化対策研究会の問題提起、提言内容です。

プロの方は特にお目通しください。

要約すると、凡そ以下のとおりです。

・エリア見直し・北上(イエシロアリは新潟レベルの寒冷地まで警戒すべき)

・気候変動や高断熱高気密化による更なるエリア変更も含め、柔軟な対応が必要

・腐朽菌リスクは、結局樹種やエリアを問わずある為、腐朽菌対策が肝要

・木材保存処理剤の耐久性の問題

・加圧注入処理材の濃度ばらつきの問題

・蟻害発生の平均築年数は約13年、そのうち薬剤処理したものが2/3もある

・薬剤処理されていても、築0年(新築時)から被害発生したケースまである

・総じて、新たな処理法としての非接地・非暴露におけるホウ酸処理を意識した内容となっています。


9.6 長期維持保全計画の立案において考慮すべき因子

9.6.1 シロアリの分布

日本におけるシロアリ被害の実態を調査し、各シロアリ種の最新の分布マップおよび住宅被害を加味したシロアリ被害危険度マップを考慮した維持管理計画の立案が求められる。

本事業では、シロアリ・腐朽被害実態調査アンケートを実施するとともに、日本における主要木材加害シロアリ種であるイエシロアリ、ヤマトシロアリの野外分布調査を行い、各シロアリ種の分布を制御する気象要因を検討してきた。

また地表~地中温度の計測、イエシロアリ巣温計測、土壌性ガスの採集・分析から、ハザードマップに資するヤマトシロアリの野外分布限界として積雪がある状態での土壌凍結深が10 cm 以下であることなどを明らかにしてきた。

これらの成果をまとめて、ヤマトシロアリ、イエシロアリの最新の野外生息分布マップを明らかにした。

さらに劣化対策や維持管理の手法を最適化するために、各シロアリ種のハザードマップ(被害危険度マップ)の提案を提案した。

提案では、イエシロアリのハザードマップとしては、過去のイエシロアリ発生情報を加味して福島(1972)の提唱した1 月の平均気温0 ℃以上の地域を指定し、ヤマトシロアリのハザードマップとしては、ヤマトシロアリが越冬可能な環境を加味して、積雪がある状態での土壌凍結深が10 cm 以下の地域、であることを指定している。

今後これらの調査を継続・深化させることで、より正確なハザードマップの構築が可能になると予測され維持管理計画の立案において、地域性を考慮するための資料が獲得できると考えられる。

その一方で、都市化や住宅の高断熱化が進むと、住宅内や周辺でシロアリが越冬しやすい環境が人為的に形成されるため、地域の気候や環境要因のみではシロアリ生息の可能性は十分には評価できない可能性がある。今後はこれらについての検討も必要になると思われる。

また気候変動などによってシロアリの生息領域が変化することも考えられるので、劣化対策や維持管理計画の立案においては、修正可能で柔軟性のある手法も視野に入れる必要があると思われる。


9.6.2 腐朽リスク

住宅に生息する腐朽菌の種類、建物内での分布や国内での分布に関する知見も、維持管理計画を立案する上で重要である。

本事業では、近年急速に発達した遺伝情報を利用した木材腐朽菌同定手法を建築害菌の同定に適用し、菌糸や子実体が明確ではない住宅等の腐朽部材からの木材腐朽菌の検出手法を検討し、実践的な手法を確立した。

今回の事業で確認できた既往の方法に対する遺伝子を用いた同定の利点としては、子実体等がないサンプルから木材腐朽性担子菌を含む多数の菌を同定が可能である、同定に必要なサンプル量は僅かである、多数の菌種やその存在密度を解析可能である、およびこれらの情報に統計手法を組み合わせることにより、より詳しい解析が可能である、を挙げることができる。

本事業では、検証した手法によって、菌類の分布に関する知見を蓄積することを目的として、住宅などの診断現場で採取した試料について腐朽菌の同定を実施した。

その結果は、菌類の種類やその生息密度と採取地や採取部材との間には明瞭な関係が無いことを強く示唆していたが、まだサンプル数が少ないことや、東北・北海道のサンプルが入手できていないことなどから、信頼性の高い結論とするには時期尚早だと考えられる。

今後、腐朽材の採取地を広げ、サンプリング数を増やすことにより、両者のより正確な関係を明らかにできると考えられる。

また、腐朽が始まってから時間を経た腐朽材では、激しく腐朽しているにも関わらず菌類の遺伝子が検出できない(同定できない)という、限界も課題としその一方で、担子菌を中心とする木材腐朽性の菌類と、それ以外とを簡便に識別する手法の確立も重要で、これによって設計時の菌類に関する環境評価や維持管理上の診断や処置方法を策定する上で、信頼性の高い実務が確立できる。

さらに菌類の全国的な分布に関する検討に加えて、住宅については床下・室内・小屋裏や壁内、水周りなどの間での菌相や密度の違いも検討する必要があると考えられる。


9.6.3 保存処理材の耐久性

住宅部材に用いられる保存処理木材の耐用年数やそれに及ぼす環境因子に関する知見は維持管理技術の確立にとって重要である。

特に既往の接地・暴露条件ではなく、非接地・非暴露条件にある木材の耐用年数は基礎的知見として重要である。

本事業では、保存処理木材を適切に管理された住宅の構造用部材として長期間使用した際の耐久性を予測することを目的に、木粉に添加された状態で高温条件下に暴露する促進劣化試験を実施した。


これまで加温した環境に暴露する促進劣化試験を実施し、銅や第四級アンモニウム化合物については、長期にわたって問題なく使用できることを確認し、微量で効力を発揮するシプロコナゾールの住宅部材中での耐久性について検討した結果、木材に注入した場合でも残存率が暴露温度により異なり、温度が高いほど消失速度が速いことが明らかになった。

その一方で、実験法上での課題も明らかになった。例えば表面積の広い木粉の形状で暴露するよりも、表面積の小さい試験体の形状で暴露した方が、薬剤の減少速度が遅くなることが示唆された。

また注入処理用木材保存剤で処理された試験体に含まれる有効成分量の経時変化は、表面処理用木材保存剤の有効成分量の径時変化と較べバラツキが大きく、有効成分残存量と暴露温度との関係を厳密に議論することができなかった。

その原因として減圧下で木材保存剤を注入する方法をとったためと推定された。

そのため初期の有効成分量の変動係数を1%以下に抑える方法で調製した試験体を用いての有効成分残存量と暴露温度との関係を
検討した。

その結果、木材に注入した場合でもシプロコナゾール残存率が暴露温度によって異なり、温度が高いほど消失速度が速いことが明らかになった。

この事業の成果は、木材保存剤の耐久性を短期間で予測できることを示唆するものである。

これをベースにCUAZ を注入した試験体を用いて耐久性を検証したが、その結果は促進劣化45 日目までのものであり、今後も促進劣化試験を継続して実施する必要がある。


以上のように、本事業では木材保存剤の耐久性を評価および予測する手法を明らかにしたものの、実際に用いられる多数の薬剤について、様々環境下での薬剤自身の耐久性を示す幅広いデータを獲得するには至らなかった。

また分析方法そのものの簡素化や改良も望まれる。

今後、本事業の知見をもとに、知見が蓄積されることが望まれる。またそれによって、点検の周期などがより明確になる。

特に保存処理木材の耐久性について、非接地・非暴露の状態での基礎的知見を獲得することは、維持管理における点検周期を確定する上で重要であると考えられる。



3) 蟻害発生の有無

蟻害について、表2に示すように、今までに施工した住宅で蟻害が発生した工務店は17.2%であり、蟻害経験工務店あたりの総数は1120 戸であり、平均8.8 戸であった。

蟻害が発生した住宅の築後年数は035 年、平均13.0 年であった。

所在地域でみると、北陸・甲信越、九州・沖縄では割程度、一方、北海道、東北では1割に満たず、わずかである。

長期優良住宅との関連をみると、長期優良住宅で蟻害が発生した工務店は社であり、被害例は40 戸であった。

最新の被害例において住宅の築後年数は年であった。

なお、蟻害発生箇所は不明である。

長期優良住宅以外で蟻害が発生したのは45 社であり、蟻害発生総数は1120 戸、平均7.9 戸であった。

蟻害が発生した住宅の築後年数は035 年、平均13.2 年であった。

蟻害が発生した箇所は、浴室などの水回り、バルコニー・ベランダであった。

また、これら蟻害が発生した住宅の防蟻処理について、処理あり62.2%、処理なし33.3%であった。

防蟻処理されていたにもかかわらず、蟻害が発生した住宅の築後年数は年から35 年であり、平均15.3 年であった。

これらのことから新築や入居時に処理したのち、再処理されてない例が多いと予想される。

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